岡倉天心は、『茶の本』の中で、茶室は世界で一番小さい家であるが、ギリシヤのパルテノンにも劣らない芸術性の高い建築である、と言いました。茶室は、露地という庭と一体になって、茶の湯をおこなうためのものです。客は世俗をこえた世界に遊ぶために、潜りをくぐって、清々しい露地を歩きます。露地は飛石や延段で道をつくり、樹木を植えて静かな山里の雰囲気をつくります。客は蹲踞で手水を使って躙口から茶室へ入ります。室内は日常の暮しの空間とは異なり、低く狭いほの暗い座敷です。そして丸太の柱で自然の素材を使った土壁塗りの簡素を極めた造りです。茶人はこうした簡素な造りのなかに、茶の湯の心意気をかよわせ、繊細な眼配りによって、隅々まで洗練された空間をつくり出したのです。
茶室は客座と点前座から成り、床を設け、炉を切って、客をもてなしやすいように、それらの配置に工夫をめぐらします。もてなしのためには客に窮屈な思いをさせることはできません。狭い空間も広く感じられるよう工夫します。茶の湯の所作には低い天井も、低い出入口も支障はありません。
こうした日常性をこえた茶室も、実は日本人の住居の縮図のようなものでした。茶室には広間の茶室もつくられました。そしてそういう造りが日常的な建物の中にも取り入れられて数寄屋造りという様式が発達したのでした。