私は六月に「遊行柳(ゆぎょうやなぎ)」の公演をさせていただきましたが、その時の後シテで使った装束は、おそらくご覧いただいた方は驚かれたことだと思います。通常、この曲に使う装束は茶色などの地味なものが多いのですが、今回はこの日のために新調した浅葱地に金色の柳の葉の模様を散らした長絹を身に纏いました。相当、派手に映ったのではないかと少し心配をしておりましたが、お客様から「まるで柳の精がふわりと舞台に降り立ったように見えました」と言っていただき、胸をなでおろしました。但し、その長絹の下には地味な色のものを選び、それがために派手な装束が活きたのです。また、能舞台で年齢を重ねてきた者だからこそ派手なものが良く映ったのだと思います。若い人が同じ装束を着けてやったとしたら見ていられないかもしれません。能の舞台では、この曲にはこの装束と決められているように思われていますが、ある一定の制約の中で、いかに自分の考えるその曲のイメージにぴったりの装束を選ぶかは役者に任せられているのです。これも、お茶会でお道具の取り合わせに悩む様に似ています。 |