三条西実隆は、当時、文化人として名をはせた公家で、足利八代将軍義政とも親交がありました。その日記『実隆公記』には、紹鴎が実隆のもとを訪れた記事が百回以上にわたって見られます。紹鴎は実隆から歌道や連歌を学び、藤原定家が著した歌道論である『詠歌大概』を伝授されました。
紹鴎が残したことばに「わびという言葉は、故人もいろいろに歌にも詠じけれども、近くは正直に慎み深く奢らぬさまをわびという。一年のうち十月こそわびなれ」（「紹鴎わびの文」）があります。
わびという言葉は、古くは『万葉集』にも登場し、藤原定家が「百人一首」に選んだ歌にもいくつか登場します。それはいずれも恋の歌で、おもにわびは恋が成就しない淋しさをあらわすことばであったようです。しかし時代を経るなかで、盛りを過ぎて衰えゆくものや、満たされた状態ではなく物足りなさにこそ美を見出す意味のことばに変わってきます。
紹鴎は先人達が和歌に詠んだわびの心を、恋が実らない淋しさだけではなく、枯れゆく命、限りある命を知ってこそ得られる境地ととらえ、わび茶を深めていったのではないでしょうか。