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茶の湯の世界では、「好み」あるいは「好む」という独特の言葉が使われます。例えば、茶人が意匠などを職人に指示して道具を作らせたとしますと、その道具にその茶人の名前を冠して、「誰々好み」の道具と呼ぶわけです。このように、茶の湯の道具類のなかには、茶人の創意工夫による独自のデザインが職人に提示され、茶人の意志を理解した職人の技術によって生み出されたものが多くあるのです。茶人の創意と職人の技術との共同作業によって生み出されるという一面が、茶道具の背景としてあるといえるでしょう。
また、現代でも家元では、家元の道具を制作する作家(千家では「職家」と呼ぶ)の手になる「好み物」が生まれています。職家の人びとは、この家元の「好み物」を作り出すために、月の初めに表千家に集まり、家元との挨拶につづく薄茶の一服を広間にて喫し、その間に家元の意向を聴き、あるいは職家が手がけた道具の趣向のよしあしを家元に相談します。「好み物」の多くは、このようなごく自然な話し合いのなかから生れてくるのです。このようにして作り出された家元の「好み物」の多くは、その形を写し伝承され、今日も多くの茶室や稽古場で用いられています。
ところで、「好み物」は道具類のみにとどまらず、茶の湯の世界全般にも存在しています。例えば、茶室のさまざまな意匠や、茶事に用いる菓子などにも「好み物」は存在します。「好み物」とは、茶人の美意識や人生からもたらされた意匠の、茶の湯における表現でもあるといえるでしょう。
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Japanese Tea Culture

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