どれくらいの大きさ、どんな形、どんな色がいいのか、これは感覚的なことで具体的には申せません。ただ私たちこの店を継いできた者は、子供のころから仕事場に出入りをして、親が作るお菓子を見て、時につまみ食いをして育ちましたので、おとなになってから勉強した感覚以上に体にしみついたものがあるように思います。
しかしまたこんなこともあります。昔、父が仕事をしていた頃、少しこの頃お菓子の色が濃いように思った母が、「この頃あんまりえぇ女の人とおつき合いしてへんみたいやなぁ」と冗談を言って家中で笑っていたことがありました。しかし機械ならぬ人間の手仕事ですので実際様々なことに感覚が左右されるものです。季節に応じて、去年と同じものをまた今年も、というふうに使っていただいておりますが、実は必ずしもそうきっちり同じ色、同じ形に仕上がるわけではないし、お客様の方でも去年と今年ではお菓子の見え方が変わって当然なのです。実はこうして職人とお客様との間で感覚のキャッチボールをしながら折り合いをつけているのです。だからこそ手仕事は一期一会、同じお菓子であってもいつも少しちがっていて、古びることがないのだと考えます。
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