
見わたせば 華も紅葉も なかりけり 浦のとまやの 秋の夕暮
利休の師の武野紹鴎は、茶の湯の境地を、この歌によって説明していました。この歌からは、すべての樹々が葉をおとし、海辺の晩秋の静まりかえった淋しげな情景が浮かんできます。やはり花、紅葉の鮮やかさを通りこして至りうる境地、紹鴎はそこに茶の湯の理想の世界を見いだしていたのです。
ところが利休は次の歌を示しました。
花をのみ 待つらん人に 山里の ゆきまの草の 春を見せばや
これによりますと、利休は雪間の草の春に茶の湯の世界を見つめていました。
人生にたとえれば、花紅葉を通り過ぎて到達するのは老の境地です。茶の湯を老人の慰みと思う人も少なくないようです。
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 中村 昌生(なかむら まさお)氏 |
京都工芸繊維大学名誉教授 福井工業大学名誉教授 不審菴文庫運営委員
昭和2年
愛知県に生まれる
平成4年
京都伝統建築技術協会理事長 に就任
平成15年
(財)不審菴評議員に就任
平成30年 11月5日にご逝去されました
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