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やがて大学を卒業し、私はフリーライターになりました。それは身分の保証がない不安定な職業で、悩みや葛藤との闘いの日々の始まりでした。週に一度、稽古場へと向かう道すがら、私はいつも悶々としていました。
「私の選んだ道は、本当にこれでよかったのだろうか。この仕事で、一生食べていけるだろうか」
足元ばかり見て歩きながら先生の家に着き、門をくぐると、チョロチョロチョロと、お庭の木々の向こうから、蹲の水音が聞こえ、引き戸をからからと開けて玄関の中に入ると、スーッと炭の匂いがしました。そこには、目に見えない境界線がありました。
稽古場は、いつも次元の違う空間でした。床の間の一輪の花、掛け軸の禅語、毎週のように変わるお茶碗、塗り物の蓋の裏の蒔絵、食籠の中のお菓子。そして、日本に生まれながら今まで意識したことのなかった、たくさんの季節に気づきました。
「お茶を習わなかったら、たぶん、一生知らないままだった……」
心からそう思う瞬間を、稽古場で何度も何度も経験したのです。
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