表千家不審菴：静聴松風：表具屋の分［奥村吉兵衛氏］

表具の家業に就いて、早いもので50年がたちました。千家様に出仕させていただいてから50年近くになります。
忘れもしません。ご先代・即中斎宗匠のお許しを得て、淨心さん（釜師・大西家の先代）、飛来さん（一閑張細工師・飛来家の先代）、正玄さん（竹細工柄杓師・黒田家の当代）、友湖さん（袋師・土田家の当代）、わたし、5人揃っての初出仕でした。昭和35年のことです。それが今では、わたしが職家の筆頭になって、5人それぞれの息子や娘が出仕する姿をみておりますと感慨ぶかいものがあります。
当時わたしは、久田宗匠のお家へ茶の稽古に通ったものです。毎月1日の千家様ごあいさつの日には、内弟子さんに稽古をつけてもらってから、お家元宗匠とご同席し職家一同でお茶を相伴させていただきます。お家元宗匠から道具製作のご意向などを伺い、ごく少ないことばを交わし、職家同士の間に了解がなりたちます。
こうした毎月の礼を積むうちに、茶の心、いうなればお家元の伝統に直接ふれ、職家としての心がけをからだでおぼえる機会をいただいてきたような気がいたします。そのありがたみが、年を重ねるごとに、仕事場に座るたびに、身に沁みてきます。