掛物が掛かりよいか、いかにやわらかく巻くか、表具にして永年変化しないか、ここに表具屋の仕事があらわれます。紙は湿気で伸び、裂は絹糸ですから逆に縮みます。この二つがしっくりするよう、紙に手をかけ、糊を選び、裏打ちに神経をついやします。そして、春夏秋冬を過ごし一年以上かけて本紙となじませなければなりません。こうしてはじめて何十年、何百年も反らない掛物になります。
今でこそ表具用の裂やお好み物の表具がみられますが、昔はありませんでした。おそらく表具裂は明治時代以降、碌々斎宗匠のころにできたものではないかと思います。また、好み表具としてもっとも古い数のものは、ご先代・即中斎宗匠ご襲名記念が最初と聞いております。そもそも表具の好みは、例えば利休好みとか云いますが、それは本紙と一体のもの、一幅ずつのものです。表具を命じたというだけで、数の内のひとつとか写しがあるわけではなかったと思われます。
今日では、紙を漉く職人も少なくなり、裂の織元もかぎられてきて、表具の技以前に素材の伝統こそ絶えぬようにと、念じるばかりです。
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