表千家不審菴：静聴松風：まわり道［市田ひろみ氏］

いつのまにか、きものの先生になっていた。昭和２８年、大学を卒業して、大阪の商社に就職してから、ＯＬ・女優・美容師・きもの・出版・テレビ・世界の民族衣裳と、まさに見えない糸にひっぱられながら、市田ひろみという、木が、大きな枝葉をつけて行った。
当時は、女の子は、学校出たら、お嫁にゆくものという時代だったので、とかく、目立っていたのかもしれない。でもお嫁にゆくという思いで、人並のおけいこごとにはげんでいた或る日。お茶の先生が、
「ひろみさん、撮影所見学、行きませんか。」
始めて見る時代劇の撮影風景をたのしんだ。
二週間くらいして、お茶の先生が、我が家へこられて、
「実は、撮影所見学言うて、おつれしましたけど、実は面接やったんです。女優として来てほしいということです。」
当時は、役者の子供が、役者になるという時代だったので、親もびっくり。
まわりはすべて反対の中で、私は、人生の大きな転機となる、女優への道を選んだ。