
新暦の3月といえば、すでに寒は明け、日ざしも長く、春のなつかしい陽気を感じはじめる時であります。
しかし、又、寒中までの夜長を楽しんだ夜咄の茶事をするには、夕ぐれ時が明るく、夜咄の趣きを味わうには不向きの頃となって参ります。
その代り、正月行事も終えて、ゆっくり正午茶事を楽しむには、夕ぐれまでの日が長く、薄茶の終る頃、室内が暗くなって、あかりを持ち出さねばならぬ様なことはなく、客を送り出すまで、ゆっくりと茶事を終えることが出来る正に正午茶事を催すには最適の時期であります。
花も椿は未だ庭に残っていて、自由に花をえらぶことが出来、そえに使う枝も、ぽつぽつ芽を吹きかける生気を感じさせられる頃であります。4月になると椿はぼつぼつ不自由になり、又、炉辺に親しんできた炉釜も少しずつ暑くるしさを感じさせられるようになりますが、3月は未だ炉の最適期であります。炉には、椿は最も親しまれる花ではありますが、ことに薄紅の曙椿や、太郎庵など、なじみ深い花であります。又、何処の家にもある藪椿など、蕾は勿論のことながら、一重のものであれば、少し開いた花であっても、茶の湯の花らしさを感じるものであります。
椿以外にも、3月に使えるものには、柳などの外、貝母や、利休が愛したといわれる菜の花などがあります。菜の花は利休忌など利休居士へのお供えばかりでなく、たとえば享保19年2月12日の如心斎の茶事には、宗旦二重に花なたね(菜種)とあります。菜の花は、茶の花とは如何なるものであるかを見直す一例としても大切な花であります。
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 堀内 宗心(ほりのうち そうしん)氏 |
表千家不審菴理事
前 長生庵主 斎号 兼中斎
大正8年
京都に生まれる
昭和21年
不審菴入門
家元入塾、先代即中斎宗匠に師事
平成27年
5月27日にご逝去されました
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