こたつ開きの日に、主として火の用心を願い、庶民でも餅を振る舞うことにより、その意識をお互いに確認したと思われます。この時の菓子が「いのこ餅」であります。御所や武士の習慣が庶民にもおよび、いわゆる街の餅屋で広く作られたと思われます。餅の薄皮に小豆が斑点状に透けて見えます。これがイノシシの子供にある斑点に喩えられ「いのこ餅」と呼ばれるようになりました。従って茶の湯の会記に「いのこ餅」の記述は稀であります。ある京都の菓子商に聞きますと、「いのこ餅」を注文されるのは、関東の方か、中部の方で、京都の人からの依頼は少ないということです。茶菓子として作られた「いのこ餅」と餅屋が庶民のためにつくる「いのこ餅」は、少し趣を異にしております。
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