待合に皆さんとご一緒していた時は固まっておりましたが、先達のお引き回しにて、ようやくいろいろな景色が目に入り出しました。
はじめて宗匠のお点前を拝見した時に、道具と手が、そして身体が自然と一体化して何ともいえない、ゆったりとした色気を感じ、魅入られてしまいました。何かほっとするとても心地よいひとときでした。そして場違いなことですが、晩年の祖母(四世井上八千代)がよく手をもみあわせていた光景を思い出しました。 宗匠の御手と祖母のしわの寄った手を引き合いに出すのは失礼極まりなく、お許しいただきたいのですが年齢を重ねたその手を、ある時は、いとしく、またある時は悲しげにさすり乍ら、時折り舞の手を思い出したように動かしている。祖母のそんな姿が私は好きでした。毎日のようにしているので動作は単純かつ、同じ動きの繰り返しなのですが、何か毎日違う祖母の気持ちのようなものが伝わってくるのが不思議でした。 でも、ある時、能や舞踊の目指すところは、こういうところにあるんだなあと妙にストンと腹に落ちました。
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