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古唐津茶碗 銘 舟越 桃山時代 田中丸コレクション蔵 |
酒の好みや飲み方が年齢とともに変わるように、やきものの好みも変わるものである。感性や体力など十年、二十年前とは変わってしまっているわけだから、自然と自分の感覚も同じように変化していく。古唐津好きは昔から変わらないけれど、好みがだんだんと変わってきたようである。
以前ならおとなしすぎてあまり好みではなかったこの古唐津の茶碗など、この歳になってみると、じわじわと余情が感じられ、最近では私が好きな茶碗のひとつとなっている。腰から口にかけての豊かなふくらみや張りの強さ。縮緬皺が生じた高台。四百年もの間、使い込まれて、しっとりと落ち着いた肌。この枇杷色の肌が、とろりと練った濃茶の翠をいかにも美味しそうに引き立てるのである。
ほの暗い、湯のたぎる音のみの静寂な茶室のなかにあって、ただただ落ち着きをはらい、ただただ淡々と佇んでいるのである。
茶の湯では伝統として、深みのある単純、技術でない技術、無味の味が貴ばれているように、このごろは、こうした素直で変化の少ない茶碗に、静穏な華やぎや複雑さを見出すようになってきた。
こうしてみると歳をとるのもまんざら悪くはない。
茶の湯の世界には、年齢を重ねないと観えないもの、聞こえないものがまだまだあるようである。
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