1)一冊目は岡倉天心の『茶の本』です。私ども鴻池組ではかねてより、東京芸術大学美術部の建築工事に関わり近年では横山大観、上村松園、平山郁夫前学長はじめ著名な卒業生の卒業作品等約5万点を所持・展示する芸大美術館等を施工した関係から幾度となく同大学のキャンパスを訪問し六角堂に座する天心像を目にし、この初代東京美術学校長が明治草創期の日本美術界の巨匠であることは認識していましたが、茶道との関係については承知しておりませんでした。
元々英文で書かれたこの著作を読み進むにつれ、いかに茶道が日本の文化・美術・建築・思想に与えた影響が計り知れないか、あるいはそれらを集大成したのが茶道であるとの識見、更には日本の文化・芸術がインド・中国などアジアで生まれた末の帰着点であり、しかもその源流には既に存在しない価値あるものであるとの見方には深く共感するものがありました。そして明治期の西洋化の時流にあって日本の文化・芸術の集大成である茶の湯を著者の英語力を持って表現し西洋に向かって単に紹介するのみならず、日本が富国強兵国家ではなく文化芸術大国であることを強くアピールしたかったのだと感じられました。
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