その内容として、一碗の中の人間性、団茶から抹茶そして煎茶に至る歴史、『茶経』の紹介、道教・禅宗等茶の精神性、茶室(すきや)の持つ意味、芸術鑑賞の心、茶と花、茶人たちについて述べています。この中で特に印象に残ったのは中国宋の時代に全盛を誇った抹茶文化が異民族である元の支配により大陸では消滅してしまった一方日本ではその文化が脈々と受け継がれ発展してきたこと、茶室(すきや)は好き家(好みの家)であり余計なものを排除した空(す)き家であり、未完成、非対称の数寄屋であるとの解説、今一つは人間が獣ではなく人間たる所以は花を愛でる心があるからとしたことであります。
余談ですが、天心が東京大学卒業後、芸術の分野に進んだ要因の一旦は彼が二ヶ月かかって英文でまとめ上げた卒業論文の「国家論」を彼の奥さんがちょっとした嫉妬心から破り捨て火中に投じたため、やむを得ず二週間の間に合わせで「芸術論」を書いて提出したことがきっかけだったということです。
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