表千家不審菴：静聴松風：料理人としてのこだわり［髙橋英一氏］

四百年余り前、南禅寺の境内の参道に面した場所に庵を結び、小さな腰掛け茶屋を開いたのが始まりとされ、茶店風情の玄関と茅葺き屋根の座敷はその創業当初からのたたずまいをとどめています。
天保八年八月十五日より料理屋となり、現在に至っております。
茶店時代の名残もあり、現在も立派な看板らしきものは無く、軒先にぶら下がる布の旗のれん一枚です。茶店をしていたころ、東隣りは南禅寺名物の丹後屋という湯豆腐屋でしたが、明治に入り琵琶湖疎水が引かれると南禅寺界隈は急に別荘地帯となり、丹後屋の場所はその第一号で初代総理大臣山県有朋公の〝無鄰庵〟という別荘になりました。
ここには伊藤博文公や品川弥二郎翁などもよく訪ねて来られ、瓢亭で会食をされたようです。又、無鄰庵の二階の洋間では、日露戦争開始決定の会議が行われたとか。
庭は小川治兵衛作とされ、別荘群の多くはこの人の作だと云われています。
昔は殆どの別荘で接待の宴会が開かれ、私共が専属でお出入りさせて頂いておりました。春秋の季節の良いころは連日のように宴会で献立を変えるのが一苦労でした。
最近はこの別荘も主がよく変ります。