平成10年1月、父が隠居して、わたしが17代永楽善五郎を襲名しました。その少し前、久田(尋牛斎)さんから、永樂家は代々、襲名の折に蓬莱山の茶碗をお家元に納めて来たことを知っていますかと尋ねられました。恥ずかしながらその時までまったく知らず、久田さんにお家元におさめられた11代保全以来の蓬莱山の茶碗の数々を見せていただきました。
古清水風の蓬莱山の茶碗はお家元でお使いなるものです。どの茶碗もデザインに大きな違いはないのですが、同じ茶碗をつくって納めることで、永楽家の代を継いだものはこれくらいの技量がございます、とお家元にお見せするという想いが込められたものなのです。
今までは、自分がただ造りたいという漠然とした思いでいたのが、襲名を機に、お家元宗匠や表千家の社中さんが使われる茶道具を担う家であると、使う人を具体的に意識することで、千家十職として自分に課せられた責任を自覚するようになりました。
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