表千家不審菴：静聴松風：石臼のこと［杉浦寛和氏］

中国北宋時代に貴族の間で発達した抹茶を挽くための茶臼（この頃は茶磨と記されていました）は、鎌倉時代中期に高僧によって日本に伝えられました。日本に抹茶が伝来した当初、茶葉は今日でいう薬研（やげん）にあたる道具で粉末にされており、これを「碾」と呼びました。これが碾茶の語源と考えられています。日本においても時の上流階級の間でのみ茶臼が使用されてきたことで、独特の風格が備えられていったのでありましょう。茶臼の孔の中には上臼と下臼をつなぐ芯木（軸）がありますが、この芯木には梅の木が用いられ、そして挽き手には松の木が用いられ、そこには竹筒がかぶされています。同じ材木ではなく「松竹梅」が使われることに、茶臼はただ粉末にするためだけの道具以上の扱いをされていたことがわかります。
茶臼には花崗岩などの硬質の石材が用いられます。その石材の中でも「宇治石」と呼ばれる輝緑岩（玄武岩の一種）で作られた茶臼が研磨面の美しさもあり最上のものとされていたようです。茶どころの宇治に、その茶に適した材質の岩脈が存在することに不思議なものを感じるところでありますが、現在この宇治石はダムの建設により採取不可能となっています。このダムによってつくられた電気が電動臼の登場を促したことを考えたとき、なにか因縁めいたものを感じます。