茶の湯の世界では、よく「真・行・草」という言葉が使われます。これは、直接には、書道の筆法である「楷書(真に相当)・行書・草書」という三種の筆法からきたものです。いわば本来の形(真)から、それを少しくずした形の行書、そして最も字形をくずした草書という三段階の筆法を、茶の湯の世界に当てはめて分類したのが「真・行・草」の分類です。 たとえば道具で説明しますと、中国伝来の道具類で足利将軍などの高貴な人々や神仏に茶を奉るときに使用する台子や皆具などは、まさに「真」の格の道具となります。それらの唐物道具に対して、土の趣を表現した国焼の陶器類や竹・木などの素材そのままを生かした素朴な道具類などは、「草」の格ということになります。そして、この中間形態、たとえば中国産の陶磁器をモデルとした国産の陶磁器類などは「行」の格と位置づけられるでしょう。陶磁器類に留まらず、多くの道具や茶室建築に至るまで、このような「真・行・草」の区別が存在します。 決められた約束事として「真・行・草」を眺めますと堅苦しい印象を受けますが、この分類の仕方には、実は日本人の外来文化の受容のあり方が見られるのです。本来の形をくずして和風化したもの、思い切って簡素化し、本来の姿から別のものに身をやつしたような草化という変化は、唐物道具から和物道具への展開ということだけではなく、「まねる・くずす・やつす」という側面からも「真・行・草」という日本人の文化のとらえ方がうかがえて興味深いものです。
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